実写動画で音声をクリアにする方法

実写動画で音声をクリアにする方法

映画もテレビ番組もCMもYouTube動画も、映像メディアはたいてい映像と音声で成り立っていますが、映像制作に慣れていないと、音声がないがしろになりがちです。

特にセリフやインタビューなど声が扱われる場合、音声の状態は動画のクオリティに大きく影響します。どんなに映像が素晴らしくても、音声が適切に扱われていないと、途端に素人の作品に感じられ、その動画を見続けるのが苦痛になります。

音声の状態が悪い作品は学生映画を含む自主制作の映画でしばしば見られます。環境ノイズが大きすぎたり、セリフが聞き取りずらかったり、不要なノイズが残っていたりする場合があります。

音声、特に声を明瞭にするためには、まず適切に収録することが重要で、さらに編集でも調整する必要があります。

収録時

可能な限り静かな状態で撮影(録音)する
日常ではその時に聞こうとしている音に耳というか脳がかってにフォーカスするのであまり気になりませんが、身の周りはたくさんの音で囲まれています。風の音、風によって雨戸やサッシなどがガタガタする音、車の音や遠くの電車の音、人の声、エアコンの音などです。

撮影の時は意図的にそれらの音を入れるのでなければ、可能な限り静かな状態にします。屋内であれば、窓やドアを閉め、エアコンを消し、撮影中はスタッフなどに黙ってじっとしておいてもらいます。人によってはじっとしていることが苦手な場合がありますが、例えばフローリングの部屋で動くと、ミシっという音が出てしまう場合があるので、注意が必要です。

屋外ではコンスタントなクルマの音は環境音として許容しますが、バイクや大型の車、飛行機などが来た場合はそれらをやり過ごしてから撮影します。環境音を活かす場合でも環境音だけ別に録音しておいて編集で合わせるほうが、コントロールしやすくなります。

声を収録する対象にマイクをできるだけ近づける
撮影の時は、役者やインタビュー対象者の口にマイクをできるだけ近づけます。動画の用途によっては、声を収録する対象とカメラが近くてまわりが静かであればカメラ内蔵のマイクで事足りる場合もありますが、映画やインタビュー動画などの場合は、ブームマイク又はラベリアマイク(ピンマイク)を使うのが望ましく、両方使って収録しておくとより安全です。カメラ内蔵のマイクでは、カメラから対象まで距離があると音声をクリアに撮れない可能性があることと、カメラやレンズの動作音がある場合にはそれも録音されてしまうためです。

録音機材

ブームマイク
ブームマイクは棒の先端にマイクをつけた状態のもので、映画撮影では一般的です。カメラのフレームに入らない範囲でできるだけ役者の口のそばにマイクをホールドして声を撮る方法です。この棒はブームポールと呼ばれます。これを上に掲げてホールドしておく必要があるので、かなり腕が疲れます。マイク

ラベリアマイク
胸元などにつけるピンマイクです。インタビューであればマイク自体が見えても構わないことが多いと思いますが、映画などでは隠す必要があります。マイクを襟の裏なとをに固定しますが、これには様々な方法があるようです。ニューヨークフィルムアカデミーで習ったのは、ガムテープの粘着面を外側にして三角形に折ってマイクと衣服を固定する方法です。ラベリアマイクはブームマイクより口に近い位置にマイクを置くことができますが、身体の動きがあるとマイクと服が擦れてノイズが発生する場合があります。また、声は明瞭に聞こえますが、「近くで撮った音」だとわかってしまうので、そのショットがワイドショットなどひきのフレーミングの場合違和感があるかもしれません。その場合はブームマイクで撮った声のほうが、自然に聞こえると思います。

カメラとは別のレコーダーで録音するのが望ましい
外部マイクを使い、カメラとは別のレコーダーで録音するのが望ましいです。マイクをカメラに接続して録音する方法は、映像と音声がひとつのデータとして記録されるためデータの管理や編集が楽というメリットがありますが、撮影中に対象が動く場合、特にマイクをケーブルでカメラに接続する方法ではカメラの取り回しに影響が出ることがあります。

ただし、ディレクターが一人で撮影も行う場合はブームマイクや外部レコーダーの使用は困難なため、カメラにショットガンマイクをつけて録音するか、ワイヤレスのラベリアマイクを使ってカメラに録音することになると思います。

サウンドミキサー兼ブームオペレーターがブームマイクを使う場合はそのままケーブルでレコーダーに接続することが多いと思いますが、外部レコーダーであれカメラへ録音であれ、ラベリアマイクをワイヤレスにする場合、アクター側にトランスミッター(送信機)を取り付け、レコーダーやカメラ側にレシーバー(受信機)をつけます。アクターの場合、特に動きがある時はマイク同様トランスミッターもカメラから見えないようにポケットなどに隠します。

録音の音量を調節する
声以外の音声でも同様ですが、最大の音量の時、例えば大声のセリフがある場合、その部分がレベルメーターの0dBを超えないように録音機器側で調整します。予めアクターにノーマルの声量と最大の声量で声を出してもらい、録音レベルを調節しておきます。

素材として環境音だけを録音しておく
撮影時には、そのシーンの撮影のあと環境音だけを10秒から30秒程度撮っておきます。これをルームトーンといいます。これは編集の時に背景音として利用します。

編集時

ノイズリダクション
その場所の環境音が聞こえることでシーンのリアリティが上がりますので、声の背景の環境音はそのまま使いたいところですが、環境音が大きすぎる場合は必要に応じてノイズリダクションをします。多くの編集ソフトには、内蔵又は外部ソフトを使ってノイズリダクションをすることができると思います。しかしこれは諸刃の剣で、ノイズは減る反面、肝心の声が金属的な音に変化してしまう場合があるため、そうならないバランスを探ります。

何らかの理由で部分的に不必要な音が録音されてしまっている場合は、声とかぶっていない限り、不要な音をカットし、そのままだと無音になってしまうので、タイムライン上のその周囲の環境音をコピーするか、撮影時に別撮りした環境音をはめ込み、クロスディゾルブでなじませます。

その他の整音
その他音量や音質の調整もします。又、唇や舌が言葉以外に余分な音を発してしまうことがあり、そこだけ音量を下げるとかカットするなどします。音量を下げたりカットするとそこだけ無音になってしまって不自然なため、その前後の環境音をはめ込みます。

上記を適切に行うと音声がクリアになります。その動画を見た人はたいてい、その音声に対してどれだけの手間がかかっているか気にも止めないと思いますが、何の違和感もなく聞こえるのがベストな状態です。

余談

余談ですが、ロサンゼルスエリアは映画のメッカですが、こと音声収録に関しては適さない場所だと感じます。車社会のため常に車の音が聞こえ、時々飛行機やヘリコプターが飛んでいます。窓を開けたシーンでない限り屋内の撮影では当然窓を閉めて撮影しますが、ここでは温暖な気候がマイナスに作用します。アクターやクルーなど大勢が集まり照明器具も熱を持ちますので室温が上昇します。そのため特に夏はエアコンが必須ですが、実際の撮影中はエアコンも止める必要があり、暑さとの戦いになります。

ハリウッドの大作映画などでは、環境音のみならずセリフもADR(別録音)をしてはめ込む手法が発達したのは、そのへんに理由があるのかもしれません。

▶︎アメリカでの撮影機材は別サイトのこちらの投稿もご覧ください。