手軽で使いやすいオールインワン・シンセ ローランド(Roland) D-20

手軽で使いやすいオールインワン・シンセ ローランドD-20(1988年発売)

懐かしのオールインワン・シンセサイザーです。

ローランド(Roland) D-20はマルチ・トラック・シーケンサー内蔵のマルチティンバー・デジタルシンセサイザーで、ドラムやパーカッションなどリズム系の音色も内蔵されている他、あらかじめ様々なリズムパターンもプリセットされています。フロッピーディスクドライブが内蔵され、オリジナルで作ったサウンドデータやレコーディングした演奏データを保存できます。

Roland D-20

ローランド(Roland) D-20 概要

以下、D-20の概要です。情報や表現は一部マニュアルから引用しています。

Roland D-20

音源:LA方式

ローランドのD-50(1987年発売)で初めて搭載された音源方式で、D-20のマニュアルには「アナログ・シンセサイザーのように重厚なサウンドから、デジタル・シンセサイザー特有のアタッキーなサウンドまで、多彩な音色を作ることができます。」と記載されています。

プリセット・トーンとして、洋楽器、和楽器、エスニック系楽器のほか、様々なシンセ系音色が内蔵されています。

Roland D-20

パフォーマンス・モードとマルチ・ティンバー・モード

キーボード演奏に適したパフォーマンス・モードと内蔵のシーケンサーに対応したマルチ・ティンバー・モードがあり、使い分けることができます。

パフォーマンス・モードでは一つのパッチ(音色)に2つのトーン(音色の基本単位)が割り当てられ、マルチ・ティンバー・モードではそれぞれに1つのトーンが割り当てられます。

Roland D-20

トーン

本体にプリセット・トーンが128種類、プログラマブル・トーンが64種類、プリセット・リズム・トーンが63種類あります。リズム・トーンはオリジナルで作ったトーンを使うこともでき、合わせて85種類まで割り当てられます。

1つのトーンには4つまでのパーシャル(トーンを構成する音源の最小単位)を使うことができ、最大32個のパーシャルまで同時に発音することができます。例えば2つのパーシャルで作られているトーンは同時に16音を、4つのパーシャルで作られているトーンでは同時に8音を発音することができます。

プリセット・トーンとして、アコースティックピアノ、エレクトリックピアノ、オルガン、パイプオルガン、アコーディオン、ハープシコード、バイオリン、チェロ、コントラバス、ハープ、ストリングス、ブラス、トランペット、トロンボーン、チューバ、フルート、ピッコロ、サクソフォン、クラリネット、オーボエ、バスーン、ハーモニカ、アコースティックベース、エレクトリックベース、アコースティックギター、エレクトリックギター、琴、三味線、笙、尺八、シタール、スティールドラム、ティンパニなどの楽器や、シンセリード、シンセベースの他、ベル系の音色、パッド系の音色その他様々な音色が内蔵されています。

その後ハードウエア、ソフトウエア含め様々な方式のシンセサイザー/音源が世の中に出ましたので、それらに比べるとはるかに基本的で、楽器を模した音色もリアルではない音色が多いですが、音楽を楽しむには十分なバリエーションがあります。

Roland D-20

マルチ・トラック・シーケンサー

内蔵のシーケンサーは、リズムトラックを含め9つのトラックを持ち、マルチ・ティンバー・モードで、複数トラックをそれぞれ別の音色で記録、再生することができます。

基本の8トラックとは別にリズムトラックがあるのがポイントで、その分音楽制作の自由度が上がります。

リズム演奏

リズム・トラックには、あらかじめ用意した1小節ごとのリズム・パターンを自由に並べてレコーディングしていきます。リズム・パターンは、プリセット32種類の他にオリジナルで32種類を作ることができます。

プリセットのリズムは、8ビート各種、バラード、レゲエ、16ビート各種、シャッフル、ディスコ、エレクトリックポップ、ジャズ、サンバ、ボサノバ、マンボ、メレンゲ、ルンバなどが内蔵されています。テンポも変えることができます。

また、リズム・トラック以外のトラックにリズム演奏をリアルタイム入力でレコーディングすることもできます。

鍵盤 ベンダー・レバー

鍵盤は61鍵フルサイズで、ベロシティ付きですが、アフタータッチは非対応です。ベロシティ付きとは、鍵盤の押し方で音の強弱を表現できることです。アフタータッチとは、鍵盤を弾いてから押し込むことで音量・音色などを変化させたりビブラートをかけられる機能のことです。ビブラートとは音を細かく揺らす奏法/唱法です。

つまりD-20では鍵盤の押し方で音の強弱を表現することはできますが、鍵盤を弾いてから押し込んで音量・音色などを変化させたりビブラートをかけることはできません。

D-20には鍵盤の左側にベンダー・レバーがあり、ビブラートをかけたりピッチを変化させることができます。

音声出力

スピーカーは内蔵されていません。外部スピーカーを接続するか、ヘッドホンで聞きます。

D-20の便利な点

D-20の便利な点は、手軽なキーボードとして楽しめることです。好きな音色を選び、プリセットのリズム・パターンからイメージに近いリズムも選び、スタートボタンを押すとリズムが流れるので、そのリズムにあわせてすぐに演奏ができます。また、同様の手軽さでシーケンサーに記録できるため、初心者でも音楽が作れます。

D-20の欠点

D-50の音色に比べD-20の音色はやや安っぽく聞こえます。前述のとおり、楽器を模した音色もリアルではない音色が多いです。D-50にプリセットされているような重厚な音もD-20にはありません。D-50と同じ音源チップを使っているようですが、D-50の方は音色の一部として記憶させるエフェクトの種類や品質が異なるようで、それが影響しているのかもしれません。

また、処理能力の不足を感じます。ネット上の情報では、テンポがズレるという記述もありますが、私の経験ではまれにきちんと音が出ない場合があり、発音の処理が間に合っていないと感じました。ただしそれはリズム・トラックを含めて最大発音できる32個以上のパーシャルを使おうとしていたのかもしれません。

D-20購入までの(長い)経緯

私はシンセサイザーが普及し始めた初期にはヤマハ(YAMAHA)のアナログシンセサイザーCS-10(1977年発売)やコルグのアナログシンセサイザーMono/Poly(1981年発売)などに惹かれ(憧れ)つつ、その当時は中学生〜高校生でお金がなく買えず、雑誌の広告や記事を眺めるばかりでした。

1983年4月のKORG GENERAL CATALOG (ELECTRONIC MUSICAL INSTRUMENTS Vol.4)より(観音折りパンフレットの中面P1、P2)
KORG ELECTRONIC MUSICAL INSTRUMENTS Vol.4より

その後ヤマハのDX7(1983年発売)のヒットを皮切りにデジタルシンセサイザーが普及し始め、シンセサイザーはそれまでの「目新しい機械/楽器」から「一般的な楽器の一つ」になっていきました。しかしまだ私は高校から大学にかけて、シンセサイザーを持っているクラスメートの家に遊びに行って見せてもらったり使わせてもらったりするにとどまり、自分で買うまでに至りませんでした。

1983年5月のYAMAHA DX7 DX9パンフレットより(観音折りパンフレットの中面P3、P4)
YAMAHA DX7 DX9パンフレットより

そしてしばらく時間がたち、シンセサイザーもさらに進化しました。

1988年5月に8トラックのシーケンサー内蔵でマルチティンバー 8トラック、マルチ・エフェクトを備えたシンセサイザー、コルグM1が「ミュージック・ワークステーション」として発売され、大きな話題になりました。それまでのシンセサイザーは、単に「様々な音を作って演奏できるキーボード」でしたが、シーケンサーが内蔵されて複数トラックの演奏情報を記録、エディットして自動再生できるようになり、エフェクトも内蔵されており、それだけで音楽制作を完結できるM1は画期的でした。

パソコンを使った音楽制作が一般化するのはまだ先のことです。

D-20を選んだ理由

いよいよシンセサイザーを買おうと思った私は、M1と同時期に販売されていたローランド(Roland) D-50(1987年発売)やD-20(1988年発売)などを比較して、楽器店で色々と音を出してみて検討しました。好みの問題もあると思いますが当時の私にとってはM1のゴージャスで雰囲気たっぷりな音色に耳がついていかず、D-50の、ある種のザラつきのある重みのある音色の傾向に惹かれました。

1988年4月のROLAND KEYBOARDS パンフレットより
ROLAND KEYBOARDSパンフレットより 1988年4月

しかしD-50にはシーケンサーが内蔵されておらず、一方、D-20はM1同様マルチ・トラック・シーケンサー内蔵のオールインワン型デジタルシンセサイザーです。ドラムやパーカッションなどの音色も内蔵されリズムパターンもプリセットされていていてリズムマシンとしても使える反面、D-50の音色に比べD-20の音色はやや安っぽく聞こえるのがマイナスポイントでした。

しかし私はシーケンサーやリズムマシン内蔵のD-20の方が最初の一台としていいのではないかと思い、購入しました。正解だったと思います。

1988年4月のROLAND KEYBOARDS パンフレットより
ROLAND KEYBOARDSパンフレットより 1988年4月

ROLAND KEYBOARDSパンフレットより 1988年4月

▶︎あわせて、カセットテープMTR(マルチトラックレコーダー)PORTASTUDIO TASCAM 246についてのこちらの投稿もご覧ください。