懐かしのデジタルMTR(マルチトラックレコーダー)です。
1996年にRoland(ローランド)から革新的なマルチトラック・ハードディスクレコーダー/デジタル・ミキサーであるVS-880が「デジタル・スタジオ・ワークステーション」として発売され、それまでのMTRではカセットテープだった記録媒体がハードディスクになり、オプションのエフェクト・エクスパンション・ボードを加えることで、フルデジタルで録音、編集、エフェクト、トラックのバウンス、ミックスダウンができるようになりました。MIDIシーケンサーとの同期もでき、まさに革命でした。
1998年に発売されたVS-1680はその後継機種で、ハードディスクレコーダー、デジタル・ミキサー、マルチ・エフェクトを統合し、VS-880の全ての機能を継承しつつ24bitで8トラックまでの同時録音、16トラックの同時再生ができ、また、各トラックそれぞれ16トラックの仮想トラック(Vトラック)を持ち、合計256トラック構成として使え、プロ仕様と表現されました。
起動中
20年ぶりに出してみましたが、残念ながらハードディスクが故障しているようです。NO HDと表示が出ます。
前面右側にハードディスクのスロット(?)があります。
ハードディスクはネジでとめてあります。
ハードディスクを抜き差ししてみましたが、直りませんでした。
後ろ側です。
カセットテープMTRの登場によって自宅で楽器やMTRを使って音楽制作ができるようになり、特にカセットテープMTRではトラック間のピンポン録音を含むマルチトラックレコーディング、つまり「録音」が主体だったためもあると思いますが、「自宅」と「録音」を合わせて「宅録」と表現されました。デジタルが主流の2021年現在でもこの表現は使われるようです。
カセットテープMTRについてはこちらの投稿もご覧ください。
一方、ハードディスク・マルチトラックレコーダーによってより複雑な音楽制作ができるようになり、この頃から「ホームスタジオ」という表現も使われるようになったと思います。VS-1680の取扱説明書には「ホームスタジオ」の表現が見られます。
VSシリーズは、普及版のVS-840、VS-890、VS-1880、VS-1824、VS-2000、VS-2400、VS-2480の素モデル、エフェクター内蔵モデル、CD/CD-Rドライブ搭載モデルなどが発売されました(モデルのバリエーションは機種によって異なる)。VS-2480CDの発売は2002年です。
VS-880が発売された1996年よりはるかに前、1988年にはすでにRolandからシーケンスソフトウエア・MIDIインターフェイス・音源モジュールのパッケージ「ミュージくん」が発売され、DTM(デスクトップミュージック=パソコン上での音楽制作)ができるようになっていました。しかしこの頃のDTMはハードウエアシンセサイザーや音源モジュールなどの外部音源を使う前提のシステムとなっていて、ソフトシンセやオーディオデータも扱えるDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)が一般的になるのは、もう少し後のことです。VSシリーズはDAW普及までの橋渡しの時期に重宝されたと思います。
以下参考までに、主要なエポックメイキングな製品を中心に発売年を調べました。
1982年 TASCAM 244
宅録ブームを生み出したカセットMTRの名機
ミキサー一体型4トラックMTR(マルチトラックレコーダー)
1983年5月 YAMAHA(ヤマハ)「DX7」
一世を風靡した世界初のフルデジタルシンセサイザー
FM音源搭載、61鍵キーボード、最大同時発音数16音
1985年 Mark of the Unicorn(MOTUマークオブザユニコーン)「Performer」
MIDIシーケンサー・ソフト
1988年5月 KORG(コルグ)「M1」
ワークステーションタイプのシンセサイザーの草分け
8トラックシーケンサー、PCM音源、8マルチティンバー、ステレオデジタルエフェクター、61鍵キーボードを搭載した、これ1台で曲が作れる「ミュージックワークステーション」
1988年 Roland(ローランド)「ミュージくん」
DTMパッケージ製品の先がけ
シーケンスソフトウエア・MIDIインターフェイス・音源モジュールのパッケージ
1992年 Mark of the Unicorn「Digital Performer」
「Performer」にオーディオ録音・編集・ミックス機能を備えたDAWソフト
1996年 Roland(ローランド)「VS-880」
マルチトラック・ハードディスクレコーダー/デジタル・ミキサーの革命
オプションのエフェクト・エクスパンション・ボードを加えることで、フルデジタルで録音、編集、エフェクト、トラックのバウンス、ミックスダウンが可能 MIDIシーケンサーとの同期も可能